33d 「主役は小太郎!? 青春の文化祭!!」
秋も深まり、神無月学園の文化祭の日が訪れた。様々な出し物を回り、年に一度の騒ぎを楽しむ小太郎達。
おとめの所属する演劇部でも、「ロミオとジュリエット」上演の為の準備が進められていが、ロミオ役をやる筈だった生徒が怪我をしてしまった。
以前、おとめに何度か脚本のことで相談を受けていた小太郎は、急遽代役を引き受けることになる。劇の衣装に身を包む小太郎に、思わず見とれるおとめ。
かたや、王子様ルックがどうの、と小太郎の周りでからかう誠人と智弘だったが、ふとどこからか霊気を感じて顔を見合わせる。
それと同じ頃、一人文化祭を回っていた落間は、古橋に声をかけられた。邪教徒に捕まったとき、それを小太郎に知らせたのが落間だと聞いた古橋は、彼にお礼を言いに来たのだった。
34d 「舞台上の攻防!! 劇の中のリアル!!」
誠人と智弘が感じた霊気を追う小太郎達は、演劇部員の一人が悪霊に取り憑かれていると知る。その場で退魔しようとした小太郎だが、上演開始の合図に気を取られ、すんでのところで逃げられてしまった。
劇は開始されるが、舞台の上で先程の悪霊に襲われる小太郎。舞台袖の誠人や智弘、観客席で霊に気づいたアセンションらに手助けされながら、劇の流れに合わせつつ悪霊と戦うことになる。
また観客席では、千草、古橋、落間の三人も、小太郎が戦っていることに気づいていた。戦いの流れ弾を弾き返し、千草と古橋を守る落間。古橋は素直に感動するが、千草は彼を警戒する。
やがて、舞台上で決着はついた。劇も予定通りに進行し、小太郎らは胸を撫で下ろす。
しかし、彼らは気づいていなかった。舞台袖からそっと様子を見守っていた、ジュリエット役の少女――衣装のヴェールの下に隠されたその素顔が、旧校舎の悪霊・中村茜のものだということに。
35d 「小太郎暗殺計画!? 危険なラストシーン!!」
劇はいよいよ、ラストシーンへと向かって盛り上がっていく。そんな折、舞台袖で準備をするジュリエット役とすれ違った智弘は、彼女があの中村であることに気がついた。
引き止めるには一足遅く、壇上へ上がっていく中村。この後に控えるのは、ロミオ役の小太郎と二人きりのラストシーンだ。不安を覚え、誠人とおとめにも中村のことを知らせる智弘。
中村の様子を窺う誠人が、小道具の短剣が本物にすり替わっていることに気がついた。このままでは小太郎が殺される。咄嗟に照明室に走ったおとめは、その場で舞台の照明を落とす。
予定より早い暗闇を不思議に思い、身を起こした小太郎は、感じた殺気に身を引いた。その視線の先に、浮かび上がる中村の姿。
だが、誠人やおとめ達が駆けつけてきたときには、既に中村の姿はどこにもなかった。「アタシはもうすぐ帰ってくるよ」――小太郎の耳に、彼女の最後の声だけが、妖しく響き渡っていた。
36d 「怪奇!? 能楽堂に現れる幽霊!!(前編)」
文化祭の終わった夜。自室で一人、小太郎のことを考えるおとめ。主役の衣装を纏った姿、彼を手助けした自分への感謝の言葉と、頭を撫でる大きな手。
考えると頬が熱くなって、おとめはこれ以上考えるのをやめた。自分には許嫁も居るし、決められた道を進んでいくだけだ。これはきっと気づかない方が良い感情だ、と。
翌日、前夜の思いを投げ捨てるように舞の練習をするおとめであったが、今日は変に小道具が転がり落ちてくる。不思議に思っていると、周囲のものが突然浮き上がり、あちこちに散乱し出した。
その日から、おとめはポルターガイスト現象に悩まされるようになる。悩みを打ち明けられた小太郎達が捜査に乗り出すが、原因がいまいち解らない。
はーにゃちゃんや能楽堂の小道具も調べたものの、どれにも霊が憑いている様子もなく。ただポルターガイスト現象だけが起こるのだった。
37d 「怪奇!? 能楽堂に現れる幽霊!!(後編)」
翌日の昼休み。考え込む小太郎達の前に落間が現れ、それは生き霊ではないかと口を挟んできた。生物の念である生き霊は、普通の霊を見る方法では見えないらしい。
しかし彼らは、念の強さ次第では霊現象をも引き起こすのだ。人間が一番怖い、とどこか吐き捨てるように呟いた落間は、やって来た古橋と共に昼食に消えた。
その放課後、おとめの家へ向かう小太郎。話を聞き、ポルターガイストは常におとめの周りで起こると突き止めた小太郎は、それはおとめの生き霊の仕業と確信する。
生き霊が発生する原因は、感情の抑圧であることも多い。小太郎にそう伝えられたおとめは、本当はずっと、今の生き方から逃げ出したい思っていたことを打ち明けた。
小太郎に感情を吐露するうちに、ポルターガイストは収まっていく。心の重荷を吐き出しきったおとめは、ついに自分が小太郎へと抱く感情を理解した。
38d 「憧れの先輩!? 疑念の中の握手!!」
小太郎はある日、古橋を捜している千草を見かける。文化祭で守られて以来、古橋は落間と一緒にいることが多くなったらしい。落間を信用していいか迷う様子の千草。それは小太郎も同じ思いであった。
その頃当の古橋は、落間と共にゲームセンターで遊んでいたが、店内で霊を見てしまう。それを落間に伝え、自分も少しだけ、幽霊を引き寄せる体質であるらしい、と愚痴る古橋。
二人が外へ出た瞬間に、店内で事故が起こる。あの霊の仕業と考えた古橋は、小太郎に除霊を頼みに行った。承諾する小太郎に、「オチ先輩も一緒ですよね、強いし」と無邪気に言う古橋。
除霊に向かう日、結局落間はついてきた。相変わらず霊能者としての腕は良く、小太郎と共に危なげなく除霊を済ませる。
これで信用して貰えるだろう、と笑う落間と、小太郎は友情の証の握手を交わす。だが、一抹の不安が消えることはなかった。
39d 「急展開!? 古橋を救え!!」
町外れの廃ビル。その一室で電話をしていた中村は、最後に落間の名を呼んで電話を切った。人工幽霊が作れそうな場所が見つかった――背後の八幡にそう声をかけ、中村は笑う。
放課後、今日は部活もなかった古橋は、早めに我が家に帰宅した。鞄を降ろして、これからのんびり出来る時間。そう思った瞬間、彼の背後に気配が生まれた。
突然、小太郎の携帯が鳴り響く。それは古橋からの、助けを求める電話だった。酷く混乱した声だけを残して電話は切れ、小太郎は胸騒ぎを覚えながら、誠人、智弘と共に古橋の家へ向かう。
そこで三人が見たものは、部屋で座り込む古橋と、既に動かなくなった彼の家族。そして見たこともないほど巨大な霊の姿だった。古橋を救おうと戦いを挑む小太郎だが、勝ち目はないと思い知らされる。
やむなく撤退を決め、古橋を連れて逃げようと手を伸ばすも、崩れた壁が行く手を塞ぐ。断腸の思いで救出を諦める小太郎。彼らが去った後、茫然自失で取り残された古橋の前に現れたのは、落間流であった。
40d 「退魔師失格!? 失われた霊能力!!」
あれはもう間に合わなかった。せめて、共に居た誠人や智弘だけでも確実に守る為、あの場は撤退する他無かった。――どれほど理屈を重ねても、古橋を見捨てた事実は変わらない。
誰かを守る為に退魔師を目指した小太郎に、守るべき誰かを見捨てたという事実が突き刺さる。ふさぎ込む小太郎は、誠人の言葉でも立ち上がることが出来ない。
自分はどうすれば良かったのか、あのときの自分には何が出来たのか。自分がもっと強ければ、何かが違っていただろうか。幾つもの自問自答が、小太郎を責め苛んだ。
その答えも出せないまま、幼い頃からの日課と化している、誠人に寄りつく霊を祓おうとしたとき、それは起こった。
霊が、祓えない。退魔の札は何の反応も示さず、ただ空を切るだけだ。小太郎は、霊能力を失っていた。