41d 「一人きりの修行!? 霊の声を聞け!!」
古橋を救えなかったこと、霊能力を失ってしまったこと、全ては自分の力不足であると思った小太郎は、一から修行し直すことを決意する。かつて智弘と特訓をした山へ、今は一人で向かう小太郎。
このままでは退魔師として何も出来ない。そう確信した小太郎は、誠人の定期的な除霊も智弘に任せ、霊力を取り戻すまで街へ帰らぬ覚悟を決めたのだ。
心配する誠人と智弘であったが、小太郎を止めることはできなかった。
小太郎が出発した日の夜、誠人は密かに古橋の家を訪れる。彼らの霊が彷徨っているなら、それを浄霊する為に。何も出来なかったけれど、せめて今、自分に出来ることをしたい。誠人は霊の声に耳を傾ける。
彷徨う霊の抱く、恐怖や無念、悲しみの感情。それと同時に誠人の意識に流れ込んできたのは、古橋は生きていると告げる声であった。
42d 「人工幽霊!? 古橋の苦悩!!」
事件のあったあの日、置き去りにされた古橋を救ったのは落間だった。「コタはおまえを見捨てた」そう古橋に告げながら、彼を悪霊の潜む廃ビルへ連れ帰る落間。
そこで古橋に告げられた事実は、あの巨大な幽霊の正体は、多数の霊を集めてひとつの霊に作り替える「人工幽霊」の試作品であること。そして、霊を寄せる古橋の体質を利用して作られたということだった。
自分の体質があの霊を作るきっかけなのであれば、家族を死なせたのは自分ではないだろうか。苦悩する古橋の背後に、人工幽霊の黒い影が揺れる。人工幽霊は、未だ彼に取り憑いているのだ。
それを見た八幡は、落間に古橋を監視しておくよう言いつける。古橋を、いや人工幽霊を手元に置き、更に強化しようというつもりなのだ。
この人工幽霊を、一体何に使うつもりなのか。落間の問いかけには答えず、姿を消す八幡。落間は小さく舌打ちし、古橋の監視を続けるが、その胸に理解出来ない苛立ちを覚えつつあった。
43d 「新たな計画!? 連れ去られた誠人!!」
ある放課後。落間は、面白い話がある、と小太郎が霊力を失った噂を悪霊達に伝えた。好敵手が勝手に霊力を失ったと聞き、中村はふてくされて姿を消す。一方の八幡は、落間に一つの案を持ちかけた。
その頃、古橋は生きていると知った誠人は、智弘と共に街へ出る。古橋を探し、彼の家の裏手の路地へと踏み込んだとき、二人の背後に落間が現れた。
古橋が生きていることを肯定しながら、落間は誠人に、古橋を助けたいなら自分について来いと言う。誠人は承諾しかけるが、信用できない、と智弘が口を挟んだ。
やがて平行線な話合いに業を煮やした落間が、誠人を殴り倒す。昏倒した誠人を、様子を窺っていた八幡が霊空間に取り込んだ。
誠人を連れ去る八幡を、智弘は能力で追おうとするが、落間に行く手を阻まれた。彼に挑む智弘だったが、相手をしている暇はない、と蹴り飛ばされる。蹲る智弘を置き去りに、落間もまた去って行くのだった。
44d 「先輩の矜持!? 怒りと叱咤、激励と信頼のこぶしが小太郎を襲う!!」
裏路地に倒れる智弘を発見したのは、通りかかった千草だった。彼女に助け起こされた智弘は、誠人が悪霊に連れ去られたと伝え、俺が先輩を助けなければと、傷ついた身体を引きずりながら悪霊を追う。
一方千草は、小太郎へ事態を知らせるため山へ走る。けれど小太郎は、まだ霊力が戻っておらず、智弘に任せる他はないと視線を逸らす。彼の頬に千草の平手が飛んだのは、その時だった。
千草は怒りと失望に頬を染めながら叫ぶ。怪我で傷ついた後輩ですら助けに向かったのに、いじけているとは何事か。目をそらして逃げているだけの臆病者──その言葉に、小太郎は言葉をなくす。
傷ついている事に甘え、無力さを味わいたくないばかりに、出来る事から目を逸らしていた。心も体も傷ついても、それでも出来る事に立ち向かう後輩の背を思い浮かべ、小太郎は拳を強く握る。
走り去ろうとする千草を引き留めたのは、鋭くも落ち着いた言葉。振り返った彼女の前に立っていたのは、なすべき事を見据え、決意と拳を固めた、一人の男──望月小太郎だった。
45d 「漢の戦い!? 決して引けぬ一歩がここにある!!」
廃ビルの一室で目を覚ました誠人が見たものは、部屋の隅で膝を抱えた古橋と、その背に佇む人工幽霊だった。全て自分の所為と泣く古橋に、誠人は声をかけ続ける。見捨ててごめん。古橋くんの所為じゃない。と。
一方、霊気を追って廃ビルへと忍び込んだ智弘だったが、努力の甲斐なく落間に見つかってしまう。傷ついた自分が正面からやりあうには力不足、しかしビルから逃げ出すという選択肢は、智弘にはなかった。
必死に落間の追跡をかわし、廃ビルの中を隠れ進む智弘。その彼を狙う落間。そして今、智弘の背に落間は狙いを定めた。彼の霊力が智弘を打ち据えようとした瞬間、落間は廃ビルの壁に叩きつけられる。
物音に振り返った智弘が見たものは、倒れこんだ落間を見下ろす小太郎の姿。驚く智弘、そして落間に、小太郎は言う。俺も俺に出来る事をしに来た、と。例え霊力がなくても、戦うことは出来るのだからと。
小太郎の意志を汲み、走り去る智弘を背に、己の拳で落間に挑みかかる小太郎。驚きに目を見開く落間だったが、小太郎の心意気を、彼もまたその拳で受け止める。
46d 「古橋を処分!? 人工幽霊を倒せ!!」
小太郎も落間も一歩も譲らず、状況は拮抗していた。そんな中、霊能力なんてあっても、他人に利用されるだけ。普通の人間に戻れるチャンスを、何故みすみす潰しにきた、と小太郎に問う落間。
対する小太郎は、そんなことは関係無いと一蹴した。幼馴染や後輩を助ける為、退魔師ではなく、ただの「望月小太郎」としてここに来たのだと。迷いの無い小太郎の瞳に、落間は苛立たしげな表情を浮かべる。
そんな二人の前に、姿を現した八幡。古橋を彼らの前に放りだし、「暴走した失敗作」の処分を落間へと指示する。事情を問い詰める小太郎に、八幡は次は失敗しないと笑みを浮かべた。
胸騒ぎを覚え、八幡へと踏みだした小太郎の耳に、古橋の悲鳴が届く。暴走する人工幽霊に取り込まれようとする古橋に小太郎が気を取られた隙に、八幡は虚空へと消えた。
人工幽霊と向かい合う小太郎を、落間が横から押しのける。何をする気だと問う小太郎に彼は、人工幽霊を倒す、とは当たり前のように答えるのだった。
47d 「助けたい!! 退魔師・小太郎の復活!!」
魂の複合体である人工幽霊を倒さなければ古橋は取り込まれ、今度こそ死ぬ。そう告げた落間は、自嘲にも似た笑みを浮かべ、人工幽霊と対峙する。その背越しに、古橋と人工幽霊を見つめる小太郎。
また古橋を見捨て逃げ出すのか。この手が無力な事を知らぬため、傷つかぬために──自問の答えは即答だった。「助けたい」──その呼びかけに応え、退魔の札は輝き、人工幽霊の巨体の一端を打ちくずす。
霊力を取り戻した小太郎は、唖然とする落間を叱咤し、今度こそ古橋を助けるため、落間と共に人工幽霊へと立ち向かった。幾度かの攻防の後、落間の攻撃を追い、小太郎は敵へと退魔の札を叩きこむ。
四散する人工幽霊。霊から解放された古橋は自らの足で、踵を返した落間を追う。制止する小太郎に、彼は「自分だけが救われるのは許されない」……そう、絞り出すように呟くだけであった。
一方、八幡の気配を追った智弘は、ビルの一室をそっと覗き込む。中にいたのは、追い続けてきた八幡と、まるで吹き溜まりのように集まる数多の霊の姿であった。
48d 「一難去ってまた一難!? ほくそ笑む悪霊!!」
一人では手に負えないと判断した智弘は、急ぎ小太郎を呼び出した。小太郎が自らの目で吹き溜まりを視認したことで、その中にいるのが誠人であると確信し、二人は八幡を不意打ちで狙う。
人工幽霊の暴走に、霊力を失ったはずの小太郎──八幡にとって、その不意打ちは、余裕を奪い去るには十分であった。取り掛かっていた術式から誠人を取り戻す事も出来ず、八幡は空間へと逃げ込んでいく。
誠人を取り囲む無数の霊を引き剥がし、ようやく助け出した彼に外傷はなく、二人は安堵の息を漏らす。しかし、八幡の術式について聞かされれば、その表情も硬くならざるを得なかった。
それは、寄せ集めた霊をまとめ、その魂を使役する古の外法「人工幽霊」──その為に、古橋と誠人を狙ったのだ。誠人に姿の見えない古橋の居場所を問われるも、小太郎はただ、口をつぐむばかりだった。
一方、中村のもとへ戻った八幡は、退魔師の復活を苦々しく告げる。しかし八幡の期待と裏腹に、中村は嬉々として指を鳴らした。「あいつに勝ち逃げなんてさせない」……決着の日が、近づいてきていた。