49d 「宣戦布告!? 悪霊の笑みとおとめの涙!!」
人工幽霊との対決を終え、通常の学生生活へと戻った小太郎達。しかしその日常の中には、古橋と落間の姿は無かった。二人は、そして悪霊はどこへ消えたのか。手がかりの掴めないまま、日々は過ぎていった。
そんなある日、小太郎は廊下で一人の女生徒とすれ違った。見覚えのある姿の少女。立ち止まり振り返る小太郎に、彼女――中村茜は笑いかける。
明日、あの廃ビルで待ってる。今度こそ決着を付けましょう。それだけを言い残して、中村は空気に溶けるように姿を消した。
仲間達のもとへ向かい、それを伝える小太郎。挑戦を受けるつもりであると言えば、誠人と智弘は、当然のように頷く。――しかし、共に話を聞いていたおとめは納得しなかった。
罠にしか思えないとおとめは小太郎を説得するが、彼の決意は固く、覆す事も出来ない。感情に耐え切れず、おとめは泣きながら小太郎の前から逃げ出してしまう。
50d 「決戦前夜!? 語られる落間の過去!!」
おとめの後を追おうとする小太郎を、千草の声が制止する。代わっておとめを追いかけた千草は、彼女の思いを知っていた。
何も出来ない自分が情けないと、物陰で涙するおとめ。そんな彼女に千草は、彼を信じて待ってあげなさい、待っていることが支えになることもある、と伝えるのだった。
一方その頃。落間と古橋は、悪霊の本拠地の廃ビルに居た。古橋と同じ空間に居ながら、話もしようとしない落間。気まずい沈黙に耐えきれず、古橋は問いかける。何で俺を助けてくれたんですか、と。
気まぐれだと短く答えてから、落間はぽつぽつと己の過去を語る。力なき人に、力ある悪霊に、利用され続けてきた生を。うんざりしてたのかもしれねえ。独り言のように零す落間。
古橋が呟きの真意を尋ねようとした瞬間、部屋の扉が音もなく開く。現れたのは、中村と八幡の二人であった。二人は古橋に向かい、自分の意思でここへ来たなら、こちら側に協力しろと要求する。
51d 「誓うは生還!! 重なる仲間の絆!!」
一夜が明けて。決戦に赴く小太郎のもとへ、おとめがやって来た。絶対、帰ってくると約束して――願いと共に、彼女は小太郎に告白する。戸惑う彼に、返事は今度で良いと言って、おとめは走り去って行った。
呆然とする小太郎の背に、誠人と智弘の声がかかる。どうやら告白も聞かれていたらしく、「コタちゃんの裏切り者!」と騒ぐ誠人と、無言で笑う智弘。そんな後輩二人に、小太郎は珍しく動揺の表情を見せた。
そうしてふざけあっていても、三人の心は同じであった。絶対に、全員で生きて帰ってこよう。こうしてまた、三人で笑い合えるように。――頷き合った三人は、廃ビルへと歩みを進める。
廃ビル前で三人を待っていたのは、霊に憑かれた動物達であった。その数の多さに苦戦する小太郎達の前に、何者かが舞い降りる。それは、彼らを密かに尾行してきたアセンションだった。
得意の結界術で、ビルまでの道を作るアセンション。彼女は小太郎達を建物に入れると、その入口を守るように、外から結界を張る。雑魚は任せろと笑うアセンションに背中を預け、三人は階段を駆け上った。
52d 「戸惑いの再会!? 新たな人工幽霊!!」
「よう、遅かったな」――階段を上った先で待ち構えていたのは、落間流、そして古橋藍の二人であった。久しぶりに見る古橋の姿に、小太郎はどこか違和感を覚える。彼から、霊能者と同じ気配がするのだ。
ここを通りたければ、俺「達」を倒していけと言う落間。戸惑う小太郎達に向かい、古橋は、自分の霊能者としての素質が開花したこと、そして、自らの意思でここに立っていることを告げる。
自分はまだ、霊能力での戦い方は知らない。それはこの霊が知っている。薄ら笑いで振り向く古橋の背後には、繋ぎ合わされた幾つもの霊魂がざわめいている。それは、新たな人工幽霊に他ならなかった。
そんな霊を憑けていれば、いずれは命に関わる。小太郎の言葉を聞いた古橋は、承知の上だと頷いて、それきり口を噤んでしまう。
かくして、戦いの火蓋は切って落とされる。小太郎と智弘が、困惑しながらも「敵」を迎え撃とうとする中、誠人は、どこかから微かな声が聞こえることに気がついた。
53d 「霊の悲鳴を聞け!! 誠人、数多の浄霊!!」
新たな人工幽霊の不可解な攻撃に、小太郎は防戦を強いられていた。投げつけた退魔の札は、視界の外から飛び込んできた霊体に阻まれる。かと思えば、背後に現れた別の霊が、そこから攻撃を仕掛けてくる――
相手の攻撃を予測する為、占い師の能力を発動させる智弘。だが水晶玉に映ったのは、小さな霊が一体のみ。そう、この人工幽霊は、様々な霊を個々の意思はそのままに繋ぎ合わせ、一つの霊としたものなのだ。
智弘と小太郎がその事実に気づいた頃、誠人は聞こえてくる声が、幽霊達の「救われたい」という悲鳴だと理解した。
小太郎と智弘に、霊達を繋ぐ霊力の糸を切るように頼む誠人。落間はそれを阻止しようとするが、それより一瞬早く、二人の霊力が糸を断ち切った。
繋がりが解け、解放されていく霊達を、誠人が受け止める。そしてそれら全てに、浄霊を施していくのだった。
54d 「2人の結末!! 救いあう思いと命!!」
ゆっくりと崩壊していく人工幽霊。それを背負っていた古橋は、呆然とした表情で誠人の浄霊を見つめていた。
残る落間へ小太郎は降伏を促すが、彼はそれを一蹴する。自分に帰る場所など無い、そう吐き捨てながら、がむしゃらに小太郎に攻撃を続ける落間。粗雑な攻撃は、小太郎に到底敵うものですらなかった。
牽制の攻撃を放つ小太郎だが、落間はそれを避ける素振りも見せない。死に場所を求めるように、自ら霊力を受けようとする落間。しかし、その霊力が彼の命を奪おうとした瞬間、古橋が彼を突き飛ばした。
驚く落間に、古橋は震える声で呟く。自分と似た力を持つ誠人は、悪意すら覚える人工幽霊を救った──ならば、自分にも誰かを救えるのではと思った、と。他の誰でもない、落間を助けたかったのだと。
その言葉に、落間はただその場に崩れ落ちる。彼と彼に寄り添う古橋に、小太郎たちはかける言葉も見つけられず、再び歩き出す。その先には、八幡が待ち構えていた
55d 「八幡の罠!? 孤独な戦いを勝ちぬけ!!」
悪霊の姿を探す小太郎達が、とある部屋に踏み込んだ瞬間。突如空間が歪み、誠人と智弘が姿を消してしまう。罠か、と悟ったときにはもう遅く、取り残された小太郎の前に、八幡が姿を現した。
三対一じゃ敵わないから等とお道化たように、二人は自分と戦っている、と告げる彼。二人を解放しろと詰め寄る小太郎に、八幡は笑う。次の瞬間、小太郎の周囲の空間が歪み、不可視の攻撃が飛び出した。
「他人の心配をしている余裕が、あるのかなぁ」あざけ笑う八幡の言葉の通り、誠人のサポートも失い、智弘の協力も望めない今、小太郎はかつてない苦境に立たされていた。
消えた二人は、別々の異空間に閉じ込められていた。周囲は一面の闇に包まれ、自分以外は何も見えない。出口を探して彷徨う彼らの前に現れたのは、鏡に映したかのように寸分違わぬ「自分」であった。
56d 「過去を乗り越えろ!! 智弘の決意!!」
目の前に立つ自分自身の姿に、智弘は困惑する。そんな彼を、『智弘』は軽蔑の目で見つめ、こんなところに閉じ込められて、一体何をしているんだ、と詰る。
さっさと出口を探すなり、作るなりすればいいのに。また諦めているんだろう。自分のことだからよく知っている。自分自身の声で紡がれる言葉に、智弘は唇を噛んだ。ずっと、自分で思っていたことだ。
何をしたって無駄なら、やめてしまえばいい。頑張るのも、もう疲れただろう、と。甘い言葉に屈しかけた智弘の脳裏に、届く声があった。諦めない、という誠人の叫び。目を背けるな、という小太郎の叱咤。
智弘は顔を上げた。目の前の『智弘』に、そして自分自身に、叩きつけるように叫ぶ。諦めない、と。無駄なら、無駄でなくなるまでやればいい。前を向いて、転びながら、憧れる背を追いかけるだけだ。
無様な。聞こえた呟きに、智弘は手を伸ばして、目を見開く『自分』の腕を掴む。無様で結構。泣いて喚いて、それでも前を向きたいんだ――そう『自分』に決意を叩きつけた瞬間。何かの割れる音が聞こえた。